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平成20年度のお題
『とっとく』【3月1日号】
- とくい唄 とっとくうちに 宴の果て
(岩鼻町 近藤 政男) - ちっとんべえ とっとかねえで 呑んじゃうべ
(中室田町 清水 正幸) - かんだ紙 とっとく爺の エコライフ
(八幡町 須田 美千代) - お年玉 今年はとっとく はずだった
(群馬中央中三年 高橋 勇人) - 楽しみに とっとくお菓子 期限切れ
(八幡原町 原田 とよ子) - 年とると 何でもとっとく 親ゆずり
(倉賀野町 松村 好一) - みんなとの 思い出ずっと とっとくよ
(群馬中央中三年 吉沢 瑛里奈)
(敬称略)
今回のお題「とっとく」は、上州では、主に「取って置く」という「動詞」として使われるおらほうの言葉です。
お題を見たとき、「とっとくは共通語(標準語)じゃねん?」と思った人もいるのではないでしょうか。
それは、共通語に「取って置き」という名詞があるため、それが動詞で使われると思われているからでしょう。
しかし、「取って置き」は、「取って置きの話」「取って置きの隠し芸」など、名詞として使われ、動詞で使われることはないのです。だから、「とっとく」は上州弁なんです
『くんない』【2月1日号】
- くんないと 言えず横から さらわれる
(上大類町 新井 京子) - くれるなら 早くくんない 給付金
(八幡町 梅村 ヨシ子) - 売ってくれ 買ってくんない だるま市
(上中居町 枝窪 俊夫) - 通信簿 見せなきゃくんない お年玉
(飯塚町 中村 豊雄) - 初詣 神様お願い 仕事くんない
(南新波町 船藤 陽子) - 私にも ピチピチはだを おくんない
(上豊岡町 目黒 愛子) - お湯くんない 昭和のあの頃 よばれ風呂
(倉賀野町 山崎 清)
(敬称略)
今回のお題「くんない」は、「ください」が転訛したおらほうの言葉です。「見てべェいねェで手伝ってクンナイ」のように使われます。
ほかにも「くれない(=与えない)」の意味で使われることもあります。「くんないか 親にささやく お小遣い」(八幡町の梅村さん)。「悪さべェしてると小遣いクンナイよ」なんて言われた覚えありませんか?
お便り紹介
「駄菓子屋で うっとくんない 小銭出し」子どものころ毎日のようにお菓子を買いにお店に通いました。女の子は「うっとくれ」と言ったと思います。(阿久津町の丸山さん)
『おっかかる』【1月1日号】
- 稲終り 案山子が畦に おっかかる
(岩鼻町 近藤 政男) - おっかかる 妻の居眠り バスの中
(八幡町 須田 美千代) - 長生きを して下さいねと おっかかる
(上中居町 冨所 弘之) - 何も彼も おっかかりたい 此の時代
(中室田町 中島 光子) - おっかかれる 妻居て嬉し 八十路
(上並榎町 三田 卓穂) - 夢でもいい おっかかりたい ヨン様に
(阿久津町 山口 ノブヱ) - おっかかる 孫の重さに 老い感じ
(小八木町 吉田 斗み江)
(敬称略)
明けましておめでとうございます。
今回のお題「おっかかる」は、上州では「寄りかかる」の意味を指すおらほうの言葉です。
不況と言われている今の時代だからでしょうか。「おっかかる=甘える・負担をかける・脛をかじる」というような意味合いで詠まれた句が多数寄せられました。「おっかかる人と言ふ字は助け合い(寺尾町の真舘さん)」
こんな時代だからこそ、「助け合う・頼り合う」という意味合いに変えて、使っていきたいものですね。
『みしみ(め)る』(その2)【12月1日号】
- 昔から 近頃の子は みしみねえ
(下滝町 天田 勝元) - 振り込めの 怖さみしみて 受話器とる
(八千代町 上原 ヒロ子) - 「みしみねぇ」 母は言うけど 親譲り
(塚沢中二年 浦辺 奈菜) - 「みぃしみろ」 顧問の先生 ゆげを出す
(塚沢中二年 江原 あすか) - 明日から みしみてやるよ 明日から
(塚沢中二年 河田 真澄) - 税増えて みしみる遣りくり でも痩せず
(乗附町 高橋 亜紗子) - 年賀状 みしみて書かねば 間に合わぬ
(鼻高町 吉井 糸麻)
(敬称略)
今回のお題「みしみ(め)る」は、漢字にすると「身染み(め)る」、身に染み(め)る。つまり、それだけ「真剣になる・懸命になる・本気になる」という意味を指すおらほうの言葉です。
上州っ子なら、子どものころ、一度や二度、親や先生から言われたことがありますよね。言われたときは、煩わしく感じたけれど、大人になって、聞いたり自分が口にしたりすると、当時を思い出し、懐かしく思う。そんな感じがしませんか。
「いまは亡き 親父の口癖 『みぃしみろ』」(金古町の中島さん)
『まっさか』【11月1日号】
- 頑固じじ まっさか固い 石頭
(浜尻町 新井 長一) - この夏の カボチャはまっさか でかかった
(下滝町 天田 勝元) - ダイエット まっさかバナナは 大人気
(田町 佐藤 是子) - ケータイに まっさか可愛い 七五三
(八幡町 須田 美千代) - 流れ星 まっさか早くて 言いそびれ
(下室田町 関 芳江) - 親娘だな まっさか似てる 喋り方
(飯塚町 中村 豊雄) - 孫が言う まっさか若いと おせいじを
(小八木町 吉田 斗み江)
(敬称略)
今回のお題「まっさか」は、「とても・非常に」という意味のおらほうの言葉です。
「今年の夏ァ、マッサカ暑ッチかったィネー(今年の夏は、とても暑かったですね)」のように使われます。「思いもよらないような」という意味合いを含んで使われることが多いようです。「温暖化 まっさか暑い 夏だった(岩鼻町の門倉さん)」
この「マッサカ」のマの部分にアクセントを置くと「マァーッサカ」となります。おらほうの雰囲気もグッと出てきて意味合いがさらに強調される感じがしませんか。
『いごく』【10月1日号】
- いごくなよ ハイハイする孫 やっと撮り
(下滝町 天田 勝元) - 蝉しぐれ 夕立前の いごく雲
(井野町 菅原 キクエ) - バリカンと いごく頭の 根競べ
(八幡町 須田 美千代) - 我が愛車 ガソリン高値で いごかない
(中室田町 長壁 薫) - よちよちの 孫にあわせて ばばいごく
(檜物町 三木 たみを) - いごいたと 喜ぶ新妻の 腹さする
(上並榎町 三田 卓穂) - 老眼鏡 足もないのに どこいごく
(聖石町 毛呂 英子)
(敬称略)
今回のお題「いごく」は、標準語の動詞「動く」が転訛したもの。話し言葉ではよく使われるおらほうの言葉ですよね。
「ゴキブリァまっさかいごきがはえェ(ゴキブリは非常に動きが速い)」のように使われます。先日我が家にゴキブリが出て大騒ぎに。いざ退治しようと追いかけたものの、その「いごき」の早い事といったら。結局逃げられる始末。今回いただいた投句の中にもそんな一句がありました。「よくいごく ゴキブリ退治 家中で」(飯塚町・中村さん)
ちなみに「いごく」は西日本方面でも、広く使われているようですよ。
『ありんど(う)』【9月1日号】
- ありんども 今では 後期高齢者
(下滝町 天田 勝元) - ありんどに 打ち水少し かけてやり
(八幡町 梅村 ヨシ子) - 道端の 飴に群がる ありんどう
(新町 清水 紀子) - ありんどの 行列囲む ランドセル
(八幡町 須田 美千代) - ありんどの 姿を見ずに 夏はゆく
(井野町 竹内 朝子) - ありんども 仲間に入れて 砂遊び
(萩原町 土田 千恵子) - 安売りデー ありんどのような 列が出来
(江木町 柳澤 英子)
(敬称略)
今回のお題「ありんど(う)」は、「蟻」の上州弁です。
蟻といえば、「甘い物が好き」「働き者」。せっかく買ってもらったアイスキャンデー。誤って落とし、悲しみ半分、情けなさ半分。うらめしく地面を見ていると、どこからともなく蟻がやって来て、せっせと運ぶ姿に興味津々。行列を追って、巣までたどりついていった思い出がある人もいるのではないでしょうか。
ちなみに、イソップ童話「アリとキリギリス」で、働き者の良いイメージがある「蟻」。実は、隣人の収穫をうらやんで、盗みを働いた欲深い人間が、神の怒りに触れ、変えられた姿、という説も。
『ほこ』【8月1日号】
- ほこへ来て 孫がジイジを 呼んでいる
(下滝町 天田 勝元) - 痒いのは ほこほこほこだ なぜ掻かぬ
(岩鼻町 門倉 まさる) - ほこに住む 交通至便な 高崎よ
(佐野窪町 須川 定良) - ほこだけの 話に羽が ついて行く
(八幡町 須田 美千代) - 遊んでた ほこが今では ビルとなり
(飯塚町 中村 豊雄) - 小川きえ ほこに蛍の 影もなし
(箕郷町生原 平本 愛子) - ほこかなあーと 探す眼鏡は でこの上
(上中居町 吉成 浜子)
(敬称略)
今回のお題「ほこ」は、代名詞の「ここ」が転訛したものです。場所を示す意味のほかにも「ほこんとこ、アッチィ日が続かいね(ここのところ、暑い日が続きますね)」のように、今を中心とした、ある一定の時間の範囲を表す意味でも使われます。「ほこんとこ 偽と値上げで 満る国」(高砂町・横室さん)
お便り紹介
「ほこいらへ 隠したへそくり めっかんねー」昭和三十年代の子どものころ、失くし物をするとよく父に怒られました。「ほこいらへ置いたんだんべ、早くめっけろ」が口癖でした。懐かしい言葉ですね(根小屋町・宮原さん)
『う(ん)めぇ』【7月1日号】
- うんめぇな 孫娘のお酌で 飲むお酒
(飯塚町 中村 豊雄) - んめぇなー タクシーで飲む ただビール
(江木町 柳澤 英子) - こりゃうんめぇ 孫の作った 目玉焼
(保渡田町 原沢 進一) - うんめぇか 問えば頬っぺに もみじの手
(八幡町 須田 美千代) - うんめぇな ほめた料理が 三度出る
(上中居町 冨所 弘之) - うんめぇと 言わせてみたい ガンコジジ
(田町 佐藤 是子) - うんめぇと 言われりゃ炊事の 疲れ消え
(箕郷町生原 平本 愛子)
(敬称略)
今回のお題「う(ん)めぇ」は「おいしい」という意味のほかにも「そんなにも うんめぇ話が 有るわきゃねぇ」(上並榎町・中嶋さん)のように「都合がいい」と言う意味や「うんめぇと ほめたらマイク 離さない」(倉賀野町の山崎さん)のように「上手」という意味でもよく使われますね。
お便り紹介
「母ちゃんの きんぴら誰もが チョーうんめぇ」九十三歳の母が四~五時間かけて鍋いっぱいに作ります。大評判のおいしさです。(箕郷町下芝・深津さん)
やっぱり「んめぇ」の代名詞はおふくろの味。
『こごなる』【6月1日号】
- 丹念に こごなる毛糸 ほごす母
(檜物町 三木 たみを) - あれ以来 こごなってしまった 恋の糸
(菊地町 小沢 朝男) - こごなるも 暫定税率 元のさや
(金井淵町 真塩 康雄) - こごなって 切れてしまった 赤い糸
(下滝町 天田 勝元) - こごなっても いつしか夫婦は ん十年
(上小鳥町 清水 洋一) - ほぐす人 欲しやこごなる 国会に
(上里見町 多胡 勝代) - あやとりの 糸こごなって 手に丸め
(聖石町 小林 千美)
(敬称略)
「こごなる」はもつれる、絡まるという意味で使われる動詞です。ペンダントの鎖などが、こごなっ、いや絡まったときなどに言いますよね。
今回の投句では、糸や髪などの句を多くいただきました。
そのほか、恋愛など甘酸っぱい思い出(?)の句もちらほらと。
お便り紹介
「幼子の こごなる髪に くし通す」
娘が小さいころ、髪を背までのばしていて、朝夕に親も楽しみながらくしを通した思い出です。(上中居町・畑さん)
『わざっと』【5月1日号】
- わざっとでも 皆の努力で エコ地球
(新町 清水 紀子) - わざっとと 言いつつ山盛り 親の愛
(島野町 野口 祐美) - わざっとの 髪にまつわる 花吹雪
(上中居町 吉成 浜子) - 婦人会 わざっと塗って でかけるべ
(棟高町 相京 惠美子) - 賃上げは ほんのわざっと 女房殿
(楽間町 秋山 清) - 二人目は わざっとすませる 初節句
(倉渕町三ノ倉 上野 栄一) - ガソリンが わざっと下がり 大騒ぎ
(金古町 丸山 二三夫)
(敬称略)
「わざっと」は、「少しばかり」という意味のおらほうの言葉です。「わざっとだけど、とっときなィ(=少ないけど、受け取ってください)」というように使われます。今回の投句でも、祝い事など、贈り物にまつわる句を多くいただきました。
「お小遣 わざっとだから 内緒だよ」(菊地町の藤巻さん)
「わざっとだかンナ・・・」そう言われてお小遣いやお年玉をもらった覚えのある人もいるのではないでしょうか。
ちなみに県外では、同じ「わざっと」を「わざと(=故意に)」と、標準語の意味で使う地域も多いようです。
『ぶに』【4月1日号】
- 妹の ぶにと我慢の 三歳児
(下滝町 天田 勝元) - この柿の 最後のひとつ 鳥のぶに
(岩鼻町 門倉 まさる) - 山分け胡瓜 これが私の ぶにかい
(新保町 石原 恭子) - 先立たれ 貴方のぶにまで 永生きするよ
(金古町 安達 テイ子) - 自分のぶに さし出す心で 天下取る
(下室田町 関 芳江) - 母のぶに 母は食べずに 子にくれる
(萩原町 土田 千恵子) - 俺のぶに 残して置けと 父出社
(菊地町 小沢 朝男) - 妻と子に たいらげられた 俺のぶに
(菊地町 小沢 朝男)
(敬称略)
「ぶに」は、「このでっけえのはおれのぶに、そのちっちぇえのはおめえのぶに(=この大きいのは私の分、その小さいのはあなたの分)」というように表現されます。
「ぶに・ぶに・ぶに・・・」と声に出して繰り返してみてください。その響き、何ともいえないおかしみが、にじみ出てきませんか。
お便り紹介
「祖母・叔母たちと同居の十一人家族。土産にいただいたようかんは、小学生の私が、兄弟が見つめる中、定規を使い正確に切り分けました。懐かしい『ぶに』です。
大家族ぶにを定規で切り分ける(箕郷町西明屋・成瀬さん)」