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平成17年度のお題
『おおふう』【3月1日号】
- おおふうに 見せたデートで 泣きを見る
(石原町 臼田 幸司) - おせち煮も おおふうに作って 腐ませる
(井野町 菅原 キクエ) - 自家製の 野菜おおふうに 呉れられる
(萩原町 土田 千恵子) - 給料日 おかずの種類 おおふうに
(阿久津町 山口 ノブヱ)
(敬称略)
今回のお題「おおふう」は「物事や金銭にこだわらない」「気前がいい」「こせこせしないゆったりとした」ことをいいます。
「あすこんちはオオフウだから葬式まで豪勢だいねえ」なんて言ったりします。
高崎のみならず県内全域で広く使われています。「どんなときも、おおふうでいたい」というのが、威勢のいいことを好む上州人のひとつの理想なのかもしれません。
『たっこねえ』【1月1日号】
- たっこねえ 奴と思えど 我が子なり
(小八木町 吉田 斗み江) - パパちゃんの 俄百姓 たっこねえ
(下中居町 尾登 きよみ) - たっこねえ 振りして妻に 甘えてる
(北久保町 根本 丈男)
(敬称略)
「たっこねえ」を一言でうまく表現できる共通語はちょっと見当たりません。頼りなくて仕事を任せられないような人を「あいつぁたっこねえかんな」と言ったり、モタモタしている人に向かって「たっこねえことしてんなぃ」としかったりします。広辞苑風にいうと「鈍い、間が抜けている、愚かだ」といった感じなのでしょうが、「たっこねえ」には、けなしながらも憎みきれない愛情がこもっているような気がします。
『みちょー』【12月1日号】
- ほてい様 みちょー女房の 風呂上がり
(寺尾町 真舘 久) - 家族みちょーと 言いつつ糞害 跡断たず
(石原町 臼田 幸司) - 桃みちょー 曾孫のほほに そっとふれ
(檜物町 三木 たみを) - 夢みちょー 宇宙旅行も すぐそこに
(貝沢町 深町 喜志子)
(敬称略)
「みちょー」は「みたい」が転訛したものです。上州の人は、今まさに雨が降っているときでも「雨が降ってるみちょー」のように使います。
「みとー」や「みてー」と言うこともありますが、いずれも近ごろは使う人が少なくなってきたような気がします。
特に「みちょー」は耳にすることがめっきり減り、おらほうの言葉の絶滅危惧種と言ってもいいかもしれません。
『はぎる』【11月1日号】
- 腹が出て 足の爪はぎり 一苦労
(上小鳥町 相川 操) - 急な客 レタスはぎって 量ふやし
(八幡町 梅村 ヨシ子) - 動く子を なだめてはぎる ママ床屋
(萩原町 土田 千恵子) - 雨雲を はぎりよけたい 運動会
(山名町 黒澤 輝美)
(敬称略)
「はぎる」は直訳すると「切る」という意味ですが、カッターやのこぎりを使うときは「はぎる」とは言いません。
紙のように薄いものや髪のように細いものを、はさみを使って切るときに限定されるようです。
電気コードや木の小枝くらいの太さになると、たとえはさみを使っても「ぶったぎる」となりますので「はぎる」の用法にはご注意を・・・。
『せえたら』【10月1日号】
- せえたらを やく手少なし 隣保班
(上小塙町 清水 シカ) - せえたらも 程よくやけば よろこばれ
(下斎田町 原田 タミ子) - 現代は せえたらやくも 命がけ
(檜物町 三木 たみを) - 父さんの せえたら猫も 無視をする
(小八木町 吉田 斗み江)
(敬称略)
「せえたら」は、「人のせえたらべー焼いてねえで、自分のことをちゃんとやれ」というように使われます。
直訳すると「世話」という意味ですが、ニュアンスとすると「おせっかい」「(余計な)お世話」という感じです。
だから「いつもおせえたらになっています」とはいいません。
語源は「才太郎畑(=いらぬ世話をすること)」で、これが転訛・省略されたものです。
『こせーる』【9月1日号】
- 解散で こせーる達磨 みな必勝
(佐野窪町 須川 定良) - 竹細工 こせーてやるか じいちゃんが
(八千代町 上原 興栄) - キンピラは こせーるまでに 手間かかり
(井野町 竹内 朝子) - ステーション 宇宙にこせーて 修理する
(聖石町 小林 千美)
(敬称略)
「こせーる」は「つくる」という意味で使われます。「拵える」が転訛し「こさえる」となり、さらに転訛して「こせーる」となったものでしょう。
単につくるというよりも、あれこれ手を加えて思い通りの形に仕上げるというニュアンスに近いものです。
「料理をつくる」という場面で使われることも多いですね。
『ぼっこす』【8月1日号】
- 組み立てた 積み木ぼっこす 孫の笑み
(井野町 菅原 キクエ) - 宴会を ぼっこす人の 酒を斬る
(乗附町 高橋 アサ子) - ぼっこすと 意外に狭い 敷地跡
(北久保町 根本 丈男) - 口故に すべてぼっこす 羽目となり
(上中居町 吉成 浜子)
(敬称略)
「壊す」を意味する「ぼっこす」は、「ぶっ」という促音が入った接頭語がついた「ぶっこわす」が転訛したものです。「ぼっこあす」「ぶっこあす」などとも言われます。「ぼっ」や「ぶっ」で、「壊す」ことがより強調されますね。買ってもらったばかりのおもちゃを壊して「はぁぼっこしちゃったんかい。てぇーてぇーてぇー」などと「てぇー」を伴って責められると、もう罪悪感はピークに達してしまいます。
『そらっこと』【7月1日号】
- そらっこと 言っては皆を 煙に巻く
(Eメール 武井 隆) - 一杯の 酒が言わせる そらっこと
(萩原町 土田 千恵子) - そらっこと 言う人何故か 憎めない
(台新田町 下條 政子) - そらっこと 混ぜて笑はす 芸のうち
(檜物町 三木 たみを)
(敬称略)
「今回は、まーず応募数が多くって八百句も集まったんさね」。「そんなに集まるわきゃねえ。そらっことべーゆってんじゃねえ」。
「そらっこと」はうそ・偽りを表す「空言」の転訛と思われますが、「うそ」という非道徳なものではなく、話をでかく面白くしてやろうという、憎めない「法螺」という感じで使われます。
ちなみに今回の応募数八百句は「そらっこと」ですが多数の投句をいただいたのは本当です。
『やめる』【6月1日号】
- 同窓会 やめる話で 盛り上がる
(八幡町 梅村 ヨシ子) - やめる腰 そらせば蟻が 先を行く
(上中居町 吉成 浜子) - やめる腰 やめるやめると パチンコへ
(飯塚町 中村 豊雄)
(敬称略)
「やめる」は、アクセントを「め」に置いて発音します。「る」に置くと「止める・辞める」になってしまいます。「雨の日は膝がやめらぃね」などのように使い、体のどこかが不快であることをいいます。漢字を当てると「病める」であり、何となく古い和語のにおいもします。ところで、今回は応募数が少なく「さてはお題が良くなかったんかと、気がやめてるんさねぇ」。
『いいかんぺー』【5月1日号】
- 韓流に ハマって家事は いいかんぺー
(北久保町 根本 丈男) - 人柄で いいかんぺーも 憎まれず
(佐野窪町 須川 定良) - 母の料理 いいかんべーだが 味満点
(萩原町 蟻川 恵子) - 連れ添うて 分かった貴方の いいかんべー
(乗附町 高橋 アサ子)
(敬称略)
「いいかんぺー」は「いい加減」の意味で、言動などがでたらめであることをいいます。「いい加減」に上州のべえべえ言葉がくっついて、さらに短縮変化したものでしょう。勢多郡や桐生周辺では「いからっぺ」といいますが、いずれにしても並の「いい加減」よりもさらに上をいく「いい加減さ」を感じさせる響きですね。
『まける・おんまける』【4月1日号】
- とっときの 銘酒孫来て おんまける
(飯塚町 中村 豊雄) - おんまける 亡母の口ぐせ 思いだし
(請地町 井上 陽子) - ガソリンを おんまけ走る アメリカ車
(大八木町 宮本 好明) - 何もかも おんまけたいと 思う夜
(岩鼻町 門倉 まさる)
(敬称略)
「まける・おんまける」は「バケツの水をおんまけたような雨が降る」とか「吸いがらをまけといてくんな」のように、内容物を「こぼす」とか「捨てる」などの意味で使います。
「おんまける」のほうが「まける」よりもさらに大げさにこぼす状態を表します。
北・西毛で広く使われていますが、中・東毛では「うんまける」といいます。