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平成16年度のお題
『くれる』【3月1日号】
- くれる娘の ドレス踏んでる 男親
(上佐野町 長井 惠) - 病気して 薬は馬に くれるほど
(聖石町 小林 千美) - 物よりも 愛をくれると 妻に言う
(北久保町 根本 丈男) - くれた娘を 今も案ずる 老ふたり
(上佐野町 小山 英雄)
(敬称略)
他県の人が最も用法に悩むのがこの「くれる」だといいます。「くれる」は「娘を嫁にくれる」や「植木に水をくれる」などのように「やる・あげる」の意味で使われていますが、一般には「こんなものくれてやる」のように、ちょっと乱暴な、あまりありがたくないニュアンスでとらえられるようです。さらに言えば「あの人は良くしてくれる」のように、自分が人から、何かしてもらうことを指すことが多く、花に水をやる行為は標準的には「水やり」であり「水くれ」とは言いません。
『いきあう』【2月1日号】
- 久し振り 行き会う友の 名が出ない
(飯塚町 中村 豊雄) - 常のごと 夢に行き会う 母やさし
(中尾町 深沢 アヤ子) - 行き会うた 思い出語る 共白髪
(佐野窪町 須川 定良) - 行き会って あいそこぼされ はて誰や
(上中居町 吉成 浜子)
(敬称略)
「行き会う」は、「いきあう」と発音し、出先でばったり誰かと会ったことを表します。「きのうな、まちに行ったら先生に行き会ったんさー」のように使います。
「ゆきあう」という読み方で辞書にも載っていますから、一見標準語のようですが、他県人によると「その場合、単に『会う』とか『出会う』って言うんじゃないの」と、「行き会う」にはかなり違和感があるようです。とはいえ、万葉集や伊勢物語にも「行き逢ひて」と登場する、由緒あるおらほうの言葉です。
『てんで』【1月1日号】
- てんでいい 晴れ着すがたの 孫むすめ
(山名町 黒澤 輝美) - てんで駄目 それでももしやと くじを買い
(上中居町 吉成 浜子) - ピカソの絵 おれにはてんで わからねえ
(聖石町 小林 千美) - なまの文字 てんで少ない 年賀状
(金井淵町 真塩 康雄)
(敬称略)
「てんで」は、打消や否定的な意味の語を伴って「まったく」とか「まるきり」の意味で「てんで駄目」のように使われます。
また、打消の語を伴わないで「とても・非常に」の意味で「てんで具合がいい」などのようにも使われます。
同じ「てんで」でも「それぞれ」の意味で使うのが主流の地方もあり、越後地方では「てんで持ち」といえば「割り勘」のことを言います。群馬では「てんでん」と「ん」をつけて言うことが多いですね。
『じゅーく』【12月1日号】
- 電話口 日増しにじゅーく 孫の声
(阿久津町 山口 ノブヱ) - 保育園 じゅーくも風邪も 持ち帰る
(八幡町 梅村 ヨシ子) - 子の意見 じゅーく言うなと 聞かぬ父
(上佐野町 小山 英雄) - じゅーく言ふ 孫にじじばば 笑いこけ
(高砂町 井田宗佑)
(敬称略)
「じゅーく」は、「生意気」とか「おしゃまな」という意味で使われます。「おじゅーく」とも言います。
幼い子が「おしゃまな」ことを言うと「この子は、おじゅーくだね」と、大人たちは目を細めてくれます。
中学生くらいになって「生意気」なことを言うと「じゅーくばかり言うんじゃない」と、大人たちは怒り出します。
『ずら』【11月1日号】
- ダイエーも 西武も野球 ずらあねえ
(聖石町 小林 千美) - くたびれた 連休ずらない 孫の世話
(上小塙町 内田 栄一) - 鶏を 笑うずらない 物忘れ
(萩原町 土田 千恵子) - 大いびき 眠るずらない 旅の宿
(岩鼻町 門倉 まさる)
(敬称略)
「ずら」といえば静岡や松本の方言として有名ですが、おらほうの「ずら」は、ちょっと意味が違います。
静岡の「ずら」は、語尾にくっついて「~だろう」という推量の助動詞として使われます。「そう言ったずら」は「そう言ったでしょう」の意味です。上州弁の「だんべえ」に近い言葉です。
おらほうの「ずら」は、ほとんどの場合、「ない」を伴って「~ずらねえ」と使われます。「~どころではない」という強い否定を意味します。越後長岡でもこれと同じ用法で「~ずらねえ」が使われています。
『おこんじょ』(その1)【10月1日号】
- 運動会 おこんじょ雨が 邪魔をする
(飯塚町 中村 豊雄) - おこんじょで 気を引く淡い 恋心
(北久保町 根本 丈男) - 弟は おこんじょされても ついて行く
(南大類町 新後閑 よう子) - 好きだった おこんじょされても 好きだった
(岩鼻町 門倉 まさる)
(敬称略)
「おこんじょ」は「意地悪」という意味の方言です。
主に群馬の西毛地域でよく使われ、東毛ではあまり使われないようです。
方言界では全国的に有名な言葉らしく、各地の方言を集めたインターネットのホームページに、群馬弁代表として顔を出しています。それだけに投句数も多く、九十九句をいただきました。
ちなみに岡山県では「おこんじょ」といえば魚の「オニオコゼ」のことです。
『まーず』(その2)【9月1日号】
- ニセ温泉 まーずがっくり 効き目なし
(片岡町三丁目 木内 和) - お年寄り まーず元気で 玉を打ち
(萩原町 土田 千恵子) - この夏は まーず暑くて 長かった
(上大類町 新井 京子) - ネオンより まーずきれいな 虫の声
(中尾町 深沢 アヤ子)
(敬称略)
標準語で「まず」は「まっさきに・ともかく」の意味や、「まず間違いない」のように「おおよそ」の意味です。上州で「まーず」といえば「とても」に近い意味で、「まーず暑いんさね」のように形容詞を強調する言葉になります。
ある大工が、施主が出してくれたお茶がおいしかったので「このお茶は、まーず、いいお茶だいのー」とほめたところ、県外出身の施主は「まずいお茶だ」と言われたのだと思い、気分を悪くしたとのこと。いかにも「おらほうの言葉」らしいこのエピソードを紹介したくて「まーず」をお題にしました。
『かんます』(その1)【8月1日号】
- かんますな 怒る親父は 鍋奉行
(上小塙町 内田 栄一) - 定年で ぬか床かんます 主夫となり
(片岡町 金井 よし子) - おもちゃ箱 かんまし見つけた お気に入り
(石原町 本多 郁恵) - 金魚鉢 かんます孫に 猫笑い
(寺尾町 真舘 久)
(敬称略)
「かんます」は「かき混ぜる・かき回す」という意味で使われます。信州や会津などの地方でも使われています。
以前、テレビの料理番組で、下仁田町出身の元アイドルが、共演者に向かって「郁恵さん、それ、かんましてください」と言ってしまったことがあります。「郁恵さん」は意味が分からず、キョトンとしていましたが、テレビからふと飛び出したおらほうの言葉、何となくうれしい気分です。
『まじっぺえ』【7月1日号】
- まじっぺえ 宝石よりも 子の笑顔
(中尾町 深澤 アヤ子) - 夏の海 波と水着が まじっぺえ
(上佐野町 小山 順子) - まじっぺえ じっと我慢で ハイチーズ
(元島名町 佐藤 政子) - いたずらの 鏡照らされ まじっぺえ
(佐野窪町 須川 定良)
(敬称略)
「まじっぺえ」は「まぶしい」という意味の方言です。
佐久や会津などでも使われていますが、群馬の中毛地域では「ひずりい」と言う人もいます。
現代語では「マジ」は「本当」という意味で使われるのが一般的です。
「おらほう」でない人にとって「マジっぽい」は「本当らしい」という意味になってしまいます。
「まじっぺえ」を使う際には、ご注意を・・・。
『ちっとんべ』【6月1日号】
- ちっとんべ 姉の意地出せ ハルウララ
(江木町 柳澤 英子) - こつこつと 貯んだ利息は ちっとんべ
(八幡町 梅村 ヨシ子) - あんこ煮る 塩ちっとんべが 味をきめ
(中尾町 金井 ノブエ) - 死ぬ思い 減らした体重 ちっとんべ
(下小塙町 金井 良江)
(敬称略)
「ちっとんべ」は「ちっとんばい」とも言い、「少し」の意味の「ちっと」と「~ばかり」の意味の「ばい」がくっついた言葉です。なから少ないことを言い、直訳すると「すこしばかり」です。
おすそ分けのときなどは「少しばかりですが」ともらうよりも「ちっとんべだけど」と出されたほうが温かい感じがしますね。逆に、もらった人が「こんなちっとんべ」と言うと、とてもきつく感じるから不思議です。
『つぐ日・つぐ朝』【5月1日号】
- 食べきれぬ おかずはつぐ日の 膳にのせ
(萩原町 土田 千恵子) - 春の雨 つぐ日にょきにょき 蕨でる
(住吉町 小林 玲子) - つぐ朝も つぐ日も待てど 手紙来ず
(岩鼻町 門倉 まさる) - 美味美味と ほめればつぐ日 同じもの
(飯塚町 中村 豊雄)
(敬称略)
「つぐ日・つぐ朝」は、「次の日・次の朝」の意味で使われます。
地元では、「そりゃあ標準語だんべえ」と思うくらい、当たり前に使われている言葉です。東京での学生時代、普通に「つぐ日」と言ったところ、友人たちから「それは何語だ」と言われ、初めておらほうの言葉だと気付いたくらいです。
『おてのこぶ』【4月1日号】
- 蕗味噌や おてのこぶにも 春をのせ
(上中居町 吉成 浜子) - 小さな手 二つ並べて おてのこぶ
(日高町 岡田 幸) - 赤飯も 一味ちがう おてのこぶ
(阿久津町 山口 ノブヱ) - 旅先で 朝市歩き おてのこぶ
(山名町 山田 澄子)
(敬称略)
「おてのこぶ」は、「おてのこぼ」ともいい、手のひらを軽く曲げたときにできるくぼみのことで、「手のくぼ」が変化した言葉です。総菜やおこわを少しだけもらうときに、お皿の代わりに使います。本市と群馬町では「おてのこぼ」が使われますが、それ以外の西毛地区では「おてのくぼ」が使われているようです。